ボクシングの試合を観戦していて、「なぜこの選手が勝ったのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
勝敗を分けるのは、パンチやフットワークといった技術だけでなく、戦略や戦術が大きな役割を果たしています。
本コラムでは、戦略・戦術の重要性とともに、プロ選手の具体例や実践で役立つトレーニングのヒントを紹介します。
観戦をより深く楽しみたい方や、練習で成果を上げたい方にとって、参考になる内容が満載です。
新たな視点を取り入れ、ボクシングをさらに楽しんでみてください
なおこちらのコラムは、BOXING CLUB田村友宏トレーナーに監修していただきました。
田村友宏(たむら ともひろ)
・25歳からボクシングを始める。
・イマオカボクシングジム(現BOXING CLUB)にて、現役を続けながらトレーナーとして勤務。27歳からプロデビュー。
・練習生時代に、何人ものトレーナーに指導していただいたので教え方の幅も広がり、会員様に対して伝わりやすい指導を心がけております。
・パンチを受けるのが怖い!という方でも、怖がらずに出来るディフェンスをお伝え致します。
もちろん上級者の方でもディフェンスに迷っていたら、ご相談ください。
「戦略」と「戦術」の違いをまず確認
ボクシングにおいて「戦略」「戦術」の定義がはっきりと確立されているわけではありません。
しかし、本コラムでは、以下のような意味合いで「戦略」「戦術」を使い分けています。
このことを頭に入れて、先に読み進めていただけたらと思います。
ボクシングにおける戦略・戦術の重要性
戦略・戦術を立てることは相手の強みを消し、自分に有利な試合運びをするためにもとても重要です。
戦略・戦術がうまくはまれば、自らが試合の流れをコントロールして勝利への確率を上げることができます。
戦略
●有効な戦略
相手も自分も同じファイタースタイルであり、かつ相手のほうがパワーが上回っている場合。
ファイタースタイルでは、打ち合いで負けてしまう可能性が高いが、ディフェンスに重点を置いて相手の攻撃をいなしながら反撃することで勝率を上げる。
●有名選手での戦略例
ディフェンスがうまくスピードでは負けないフロイド・メイウェザー・ジュニア
卓越したディフェンスで相手の攻撃をほぼ無効化し、相手の打ち終わりなどにカウンターを狙う。
この戦略が難しい相手には、スピードで勝負(ヒットアンドアウェイ:パンチを打ってすぐに相手選手から離れる戦い方)をすることで、ダメージを最小限に抑えながら、KOは狙えなくても確実にポイントを取っていく。
戦術
●有効な戦術
相手はバランスが良く、オールラウンドタイプのボクサーファイター。
セオリー通りの攻撃は、見切られてしまう可能性が高い。
トリッキーな攻撃を混ぜることで、相手を惑わしリズムを狂わせる。
●有名選手での戦術例
多彩なフェイントや予測不能なアングルからの攻撃が得意な内藤大助
セオリーとは違ったリズムで攻撃したり、思いも寄らない角度からの攻撃をすることで相手のディフェンスを迷わせ、相手より有利な心理状態で戦う。
実際のボクサーの戦略・戦術の立て方
ボクサーが実際にどのような方法で戦略・戦術を立てているのか、田村トレーナーに解説していただきました。
私の場合、突出したパンチ力やスピードを備えていません。
その中でも勝利の確率を高めるために、相手にやりづらいと感じさせるような戦い方や、どうしたら嫌がるかを戦略のベースにし、自分が持っている武器(得意なジャブ、フェイント、距離の潰し方)をどう駆使して戦うかを戦術として考えていました。
※補足:強いパンチや突出したスピードがあれば、ある程度それに頼った戦い方も選択できる。
●相手選手の分析方法
人によって様々あると思いますが、私の場合は以下のようなポイントを意識して相手選手の傾向を分析していました。
先ほど述べたように戦略・戦術のベースはありましたが、相手選手のタイプにあわせて戦い方を柔軟に変えるようにしていました。
戦略・戦術の成功例
KO率が高く、比較的早いラウンドでの勝利が多い選手との試合でした。
通常であればパンチ力があると想定されるため、距離を取るアウトボクシングをする戦略を立てるかと思います。
しかし、相手もそれは想定の範囲と考えられるので、逆に始めから接近戦で挑みました。
しかも、無駄に接近戦で打ち合うのではありません。
近距離でもディフェンスを重視し、相手の打ち終わりにコツコツ細かくパンチを当てたり、強打ではなく手数を多くしたりすることで、相手の攻撃の機会を減らす戦略を取りました。
この戦略で相手のリズムを崩した結果、判定勝ちを収めることに成功しました。
戦略・戦術の失敗例
ある試合で、普段は使っていないパンチを出して、相手のリズムを崩す戦術を取ろうとしたことがあります。
しかし、慣れない動きのため自分の長所が消えてしまったことが、失敗例として挙げられます。
ボクシングの戦略・戦術を磨くためのポイント
ボクシングで勝利をつかむためには、単に技術を磨くだけではなく、戦略と戦術を練り上げることが欠かせません。
それには、自分の特性を理解し、状況に応じて適切に対応できる力を養うことが必要です。
ここでは、戦略・戦術を磨くための具体的なポイントを3つ紹介します。
ポイント1:自己分析で自分の強みを知る
自分の得意な距離や戦い方を理解することで、効率的に戦略を立てられます。
得意な距離ごとの具体的なトレーニング方法は、以下の通りです。
●長距離
ステップワークを駆使するには、ラダーでの足さばき練習やロードワークでのスタミナ強化が鍵となります。
●中距離
マスボクシングやスパーリングを通じて、相手に合わせて前後に動く臨機応変な対応力を養います。
●近距離
サンドバッグやミットで、パンチ力を最大限発揮するための角度やインパクトを意識したトレーニングが重要です。
また、パンチを避けてから反撃する動きも練習に加えましょう。
ポイント2:対応力を身につける
試合の中では、チャンスをものにする冷静さと、ピンチにおける迅速な判断が求められます。
対応力を高めるための考え方と実践例を紹介します。
●戦術の幅を広げる
器用なボクサーであれば多様な戦術を駆使できますが、不器用なボクサーには限られた戦術を深める工夫が必要です。
日常生活での小さな意識改革が、戦術の向上に役立ちます。
ポイント3:試合の流れを理解する能力を鍛える
試合中に現在の状況を正確に把握し、有利・不利を即座に判断できる力は重要です。
この能力を鍛えるために、以下の方法を実践しましょう。
●動画を分析する
試合映像を見て採点し、勝利した選手の心理や行動を推測します。
特定のシーンをピックアップし、「なぜこの動きを選んだのか」を考察すると洞察力が高まります。
●敗因を分析する
負けた選手に欠けていた要素を見極め、同じ失敗を避ける方法を考えましょう。
ボクシングの戦略・戦術の大まかな種類
ボクシングには多彩な戦略・戦術があります。
観戦時に「この選手はどのタイプだろう?」と想像しながら見ると、試合の楽しさが一層深まるでしょう。
●アウトボクシング
リーチやスピードを活かし、距離を保ちながら戦うスタイル
●インファイト
接近戦が得意で、力強いパンチで相手を下がらせながら戦うスタイル
●カウンターパンチャー
相手の攻撃を読んだり、ミスを誘ってその隙を狙うスタイル
●ハードパンチャー
スピードや精度よりも、一撃の破壊力で相手を圧倒するスタイル
ボクシングの戦略・戦術に関するQ&A
- Q試合中に戦略や戦術を変えることはありますか?
- A
あります。
試合中に今の戦い方では優位性を取れていないと感じたら、変える必要があると思います。
- Qボクシングの戦略・戦術の考え方が日常生活で役立ったことはありますか?
- A
例えばボクシングでは「リング上で勝つこと」がゴールとします。
勝つためには、今現在持っているスキルや能力をどう駆使して勝利するか道筋を立てます。
仕事で例えれば「1件の契約を取ること」がゴールとすると、会社の状態を把握してどのような条件が出せるか、自分のセールス能力でマイナス面をどう打ち消したり、もしくはプラスに変えられるかなど、ゴールに向かう筋道を立てると思います。
ボクシングの戦略や戦術に置き換えて、うまくいったことは仕事以外でも多々あります。もしかしたら皆さんも『職場』という『リング』で自然と戦略・戦術を使っているのではないでしょうか。
その経験をぜひボクシングに変換して、効率よくトレーニングしていただきたいです。
- Q階級によって戦略の傾向は何か変わりますか?
- A
重い階級になってくると、速いスピードで動くことが難しくなると思うのでスピードを活かす戦略は減ってくると思います。
そして軽い階級は、以前はハードパンチャーと言われる選手はそれほどいませんでした。
しかし、科学的なトレーニング等の進化により、階級に関わらずハードパンチャーが増えています。
そのため、多少攻撃を被弾しても手数で押し返す戦略が取りにくくなっていると思います。
まとめ
ここまで、ボクシングの戦略と戦術について解説しました。
観戦では選手の意図や動きを読み解き、練習では自己分析を通じて自分の強みを見つけてみてください。
これらを意識することで、ボクシングの新たな面白さに気づくはずです。
ボクシングは全身を使う運動で、短時間でもしっかり効果を感じられるのが魅力です。
運動不足解消やダイエット、精神力の向上にもつながり、続けやすいスポーツとして人気があります。
BOXING CLUB では、どなたでも参加できる1日体験を実施しています。
戦略や戦術に関するアドバイスはもちろん、実践的なトレーニングも体験していただけます。
そのほか気になることがありましたら、お気軽にご連絡ください。